2013年10月22日火曜日

『そろそろ旅に』 松井 今朝子著

日本の本が読みたいという私のリクエストに妹が日本から持って来てくれた本です。
十返舎一九とか渋い本読むなぁ、と恐る恐る読み始めてみたらこれが意外に面白い。
自分では絶対に選ばない本だったと思うので、妹の幅広い読書範囲と膨大な読書量には脱帽。


『東海道中膝栗毛』で一世を風靡するのはまだ先のこと。若き日の十返舎一九、与七郎は平穏な暮らしに満たされず、憑かれたように旅を繰り返す。駿府から大坂、そして江戸へ。稀代のユーモア作家が心に抱いた暗闇とは何だったのか。意外な結末が深い感動を呼ぶ、直木賞作家渾身の長編小説。
                                       Amazon.co.jp 商品の説明より


十返舎一九の名前と代表作『東海道中膝栗毛』は、日本史の教科書を通じて学んだことだけはうっすら記憶にあります。
その十返舎一九の青年期から壮年期を描いたのがこの作品。
私が面白いと思ったポイントを以下にまとめてみました。

1.        歴史に人あり、人に歴史あり
分厚い歴史の教科書の中のたった1,2行の表記されているだけの十返舎一九。
たった12行の裏には、これだけのドラマがあるのだと思うと気が遠くなります。
日本史の授業もただひたすら暗記するんじゃなくて、こういうドラマがあったことも教えてもらえるともっと面白くなると思うけど・・・まぁ、そんなこと教えてたらキリがないんでしょうけど、こういう部分が歴史の面白さだと思うんですよね。

2. 江戸時代の距離感覚
静岡から東京の距離、この本の中で言う駿府から江戸の距離は、今ではたった数時間で移動できてしまいますが、当時は何日もかかる旅でした。
当時の人にとっては、たったこれだけの距離も今の海外旅行なみの感慨を持っていたのがこの本から伺い知れます。
私の祖母は昭和生まれですが、それでも東京に対してまるで外国のような感覚を持っている人です。若い頃東京から疎開してきた男性と恋に落ちたのですが、家族から大反対を受け泣く泣く諦めた・・・というドラマチックな恋愛をしている祖母。反対された理由が「東京になんて娘をやれない」という理由だったよう。
それから50年以上の時が経って、彼女の孫娘(つまり私)は海外で外国人と結婚。
時代の流れを感じます・・・って、本の内容からはずれちゃいましたね。

3.人生は旅
というわけで、この時代ほとんどの人が生まれた町で育ち、暮らし、そこで死んでいくのが大半だった中、十返舎一九は静岡から大阪、大阪から東京と、暮らす拠点を何度も変えています。
ちょっと事が上手くいかなくなると旅に出て人生を“初期化”してしまいたくなる若い頃の十返舎一九。腰を落ち着けてその地に根を張っている人たちが羨ましいような気持ちと、その人たちに自分の気持ちはわからないだろうという葛藤。
私自身浮き草のような部分があるため、ちょっとわかるような気がしました。
18歳で故郷を出てから数カ国に暮らして、未だ定住の地を決められない根無し草なので、十返舎一九の寂しさというか「自分はどうしてこうなんだろう」という葛藤がなんとなくわかります。


何百年も前の人物や当時の生活を身近に感じることのできる1冊です。
戯作などの江戸時代の文化や歴史に興味が無くても、小説として十分楽しめる内容なのでぜひ読んで欲しいと思います。
興味がある人はもちろん内容をもっと楽しめるんでしょうね。



0 件のコメント:

コメントを投稿